すい臓がん:早期発見と治療の最前線

すい臓がんは「沈黙の臓器」のがんと呼ばれ、早期発見が極めて困難な疾患として知られています。国立がん研究センターの統計によると、新規患者数4万3865人に対し、死亡者数は3万7677人、5年相対生存率はわずか8.5%と、主要ながんの中で最も予後が悪いのが現状です。しかし、医療技術の進歩により、すい臓がんの早期発見と治療に新たな光が差し始めています。

すい臓がん早期発見の難しさ

金沢大学医学類の山下太郎教授は、すい臓がんの診断の難しさについて次のように説明しています。

「自覚症状が出た段階では残念ながら早期のすいガンを診断することは極めて難しい。やっと見つかったと思ったら既に進行してしまっていると。そういうガンの代表がすい臓がん」

すい臓は胃の裏側に位置し、腫瘍を見つけにくい臓器です。しかし、早期発見できれば治療の可能性は大きく上がります。山下教授によれば、「10ミリ未満で診断がついた患者の5年生存率は80%ある」とのことです。

革新的な早期診断技術:パンレグザ

この課題に対して、金沢大学消化器内科と医療ベンチャー企業キュービクスが共同開発したのが「パンレグザ」という血液検査キットです。

キュービクスの丹野博社長は、パンレグザの特徴を次のように説明しています。

「PCRで遺伝子を増やしていく。すい臓がんがあることによってだけ増える遺伝子があるので増えてくれば元々膵がんがあることによって動いているという証明になる。」

パンレグザは、従来の腫瘍マーカーに比べて初期段階のすい臓がんを識別する感度が高く、従来の35%から78%まで向上しています。2022年に薬事承認を受けており、今後保険適用されれば患者の負担額は1万円を切ると期待されています。

最新の治療技術:超音波内視鏡(EUS-FNA)

すい臓がんの治療面でも、新たな技術が導入されています。その一つが超音波内視鏡(EUS-FNA)です。

金沢大学附属病院内視鏡センターの鷹取元准教授は、この技術について次のように説明しています。

「超音波内視鏡は内視鏡の先端に超音波の端子が付いていて、これごと口から食道、胃、十二指腸といって、胃や十二指腸の壁を通してすい臓を詳細に観察することができます」

さらに、この内視鏡は観察だけでなく、組織採取も可能です。

「ここに鉗子口というのがあってここからすい臓の組織を取るための専用の針を出して超音波で見ながら腫瘍を狙い撃ちして細胞を取ることができる」

結論

すい臓がんは依然として難しい疾患ですが、パンレグザのような新しい診断技術と、EUS-FNAのような先進的な治療技術の組み合わせにより、早期発見・早期治療の可能性が高まっています。定期的な健康診断と最新の医療技術の活用が、すい臓がんとの闘いにおいて重要な役割を果たすでしょう。


用語解説

  • メッセンジャーRNA:DNAの遺伝情報をタンパク質合成の場所に伝える役割を持つRNA分子。
  • PCR:ポリメラーゼ連鎖反応の略。特定のDNA配列を増幅する技術。
  • 腫瘍マーカー:がんの存在を示唆する物質で、血液や尿中に現れる。
  • EUS-FNA:超音波内視鏡下穿刺吸引法の略。超音波ガイド下で組織を採取する技術。