SCRUM-Japan第五期プロジェクト始動:最新のがん研究技術で個別化医療を加速
国立がん研究センター東病院は、2024年6月より「SCRUM-Japan」の第五期プロジェクトを開始しました。このプロジェクトは、がんの個別化医療の発展を目指す日本最大規模の産学連携研究です。今回の記事では、第五期プロジェクトの主要な取り組みと、がん研究における最新技術の導入について解説します。
SCRUM-Japanとは
SCRUM-Japanは、2015年から開始された日本初の全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトです。これまでに約3万例の組織遺伝子パネルと約1万例のリキッドバイオプシーのデータを集積し、新薬20剤27適応、遺伝子診断薬16種の薬事承認に貢献してきました。
第五期プロジェクトの主な特徴
1. LC-SCRUM-Asia(肺がん研究)
- 蛍光多重免疫染色解析の導入: 抗体-薬物複合体(ADC)治療の開発に貢献
- 小細胞肺がんのスクリーニング再開: ADCやBiTEの開発促進
- LC-SCRUM-CD(Clinical Development)の立ち上げ: 臨床試験参加促進システムの構築
2. MONSTAR-SCREEN-3(多がん種研究)
- 空間トランスクリプトーム解析の導入: 1細胞レベルでのがんの本態解明
- 全ゲノム解析を用いたリキッドバイオプシー: 高感度な再発早期発見技術の開発
- 血液がんへの対象拡大: 固形がんと血液がんの知見を融合した治療開発
- マルチオミックス解析の実施: AIを用いた高度な病態解析
技術の導入とその意義
蛍光多重免疫染色解析
この技術により、ADCの標的となるタンパク質の発現と局在を高精度で解析できます。これにより、ADCの効果や副作用を予測するバイオマーカーの同定が期待されます。
空間トランスクリプトーム解析
腫瘍組織内の各細胞の遺伝子発現を1細胞レベルで評価できる革新的な技術です。がん細胞と周囲の免疫細胞の相互作用を詳細に解析することで、新たな治療標的の発見につながる可能性があります。
全ゲノム解析を用いたリキッドバイオプシー
患者個々のがん細胞の全ゲノム情報を基に、血液中のがん由来DNAを高感度で検出する技術です。これにより、これまで検出が困難だった早期のがん再発を発見できる可能性が高まります。
プロジェクトの目標と期待される成果
SCRUM-Japan第五期プロジェクトは、以下の目標を掲げています:
- 個別化医療のさらなる発展
- 新規治療法の開発加速
- がん患者の生存率向上と生活の質改善
これらの最新技術を駆使することで、がんの早期発見、精密な診断、効果的な治療法の開発が加速することが期待されます。
まとめ
SCRUM-Japan第五期プロジェクトは、最先端の研究技術を導入し、がんの個別化医療の実現に向けて大きく前進しています。蛍光多重免疫染色解析や空間トランスクリプトーム解析などの新技術により、がんの本態解明と新たな治療法の開発が加速することが期待されます。
このプロジェクトの成果は、将来的にがん患者さんへのより効果的な治療の提供につながる可能性があります。今後のSCRUM-Japanの進展に、多くの患者さんと医療関係者の期待が寄せられています。
専門用語解説
- リキッドバイオプシー:血液などの体液サンプルからがんの遺伝子情報を得る検査法。
- ADC(抗体-薬物複合体):がん細胞を狙い撃ちする抗体に抗がん剤を結合させた薬剤。
- BiTE(二重特異性T細胞誘導分子):免疫細胞とがん細胞を結びつけ、がん細胞を攻撃させる分子。
- マルチオミックス解析:遺伝子、タンパク質、代謝物など、複数の生体分子情報を総合的に分析する手法。