乳がん術後のフォローアップ:腫瘍マーカー検査の意義と限界
乳がん術後のフォローアップは、多くの患者さんにとって不安と希望が入り混じる時期です。特に、腫瘍マーカー検査の結果は患者さんに大きな影響を与えます。本記事では、がん研有明病院の高野利実医師による、乳がん術後の腫瘍マーカー検査の意義と限界に関する見解を紹介します。
症例:43歳女性の乳がん術後フォローアップ
患者背景
- 診断:右乳がん(ステージⅡ)
- 手術:右乳房部分切除術と腋窩リンパ節郭清術
- 腫瘍特性:
- サイズ:1.5cm
- リンパ節転移:1個
- ホルモン受容体陽性
- HER2陰性
- Ki67値:42%(高値)
術後治療
- 放射線治療(右乳房)
- 化学療法:
- AC療法 4サイクル
- ドセタキセル 4サイクル
- 経口抗がん剤(TS-1)1年間
- ホルモン療法(タモキシフェン)10年間予定
腫瘍マーカー検査の結果と専門医の見解
患者さんが術後9ヶ月目に受けた腫瘍マーカー検査(CA15-3)で、基準値を超える37という結果が出ました。しかし、PET-CT検査ではがんの所見は見られず、その後CA15-3値は低下傾向を示しました。
高野医師は、この状況について以下のように解説しています:
- 偽陽性の可能性: 腫瘍マーカーの上昇は、再発ではなく偽陽性の可能性が高い。
- 腫瘍マーカー検査の限界: 腫瘍マーカーの変動で再発を早期発見しても、予後改善の根拠はない。
- 検査の心理的影響: 腫瘍マーカーの変化は患者に不必要な不安をもたらすことがある。
フォローアップにおける推奨事項
高野医師は、以下のアプローチを推奨しています:
- 腫瘍マーカー検査の制限: 無症状の場合、定期的な腫瘍マーカー検査は不要。
- 画像検査の適切な使用: 症状がない限り、CT等の遠隔転移検査は不要。
- 局所再発のチェック: マンモグラフィー、超音波検査、視触診を定期的に実施。
- 術後薬物療法の継続: ホルモン療法など、prescribed された治療を継続することが重要。
患者さんへのメッセージ
高野医師は、患者さんに対して以下のメッセージを伝えています:
「やるべきことはやっているので、基本的に治ったものと考え、再発のことは考えすぎずに過ごしていくのがよいと思います。」
この言葉は、適切な治療を受けた後は、過度の不安を抱えることなく、前向きに生活することの重要性を示唆しています。
まとめ
乳がん術後のフォローアップにおいて、腫瘍マーカー検査は必ずしも標準的な方法ではありません。むしろ、適切な術後薬物療法の継続と、定期的な局所再発チェックが重要です。患者さんは、医療専門家と相談しながら、自身に適したフォローアップ計画を立てることが大切です。
がん患者さんとそのご家族にとって、正確な情報に基づいた意思決定は非常に重要です。不安や疑問がある場合は、担当医やがん専門の相談窓口に相談することをお勧めします。
専門用語解説
- 腫瘍マーカー:がん細胞から作られる物質で、血液検査で測定可能。CA15-3は乳がんの代表的な腫瘍マーカー。
- PET-CT:がん細胞の活動を検出する陽電子放射断層撮影(PET)とX線コンピュータ断層撮影(CT)を組み合わせた画像診断法。
- Ki67値:がん細胞の増殖の速さを示す指標。高値ほど増殖が速いことを示す。
- AC療法:ドキソルビシンとシクロフォスファミドを併用する化学療法。