モデルナ社の製品多角化戦略:がんワクチン開発の進展と財務見通しの変更

米国のバイオテクノロジー企業モデルナ社が、新型コロナウイルスワクチンからの製品多角化に向けた取り組みの最新状況を発表しました。本記事では、同社のがんワクチンを含む新製品開発の進捗と、それに伴う財務見通しの変更について詳しく解説します。

新製品開発の進捗状況

RSウイルスワクチン「mRESVIA」

  • 2024年5月:米国で60歳以上の成人を対象に承認取得
  • 今後の計画:60歳未満の高リスク成人への適応拡大を申請予定
  • 臨床試験結果:18~59歳の高リスク成人に対する免疫原性と忍容性が確認

インフルエンザワクチン

  • 単独ワクチンの迅速承認申請を中止
  • 新型コロナとインフルエンザの混合ワクチン開発に注力
  • 年内に混合ワクチンの申請を予定

がんワクチン

  • 米メルクと共同開発中
  • 第2相試験の結果をもとにFDAと協議
  • 現時点でのデータに基づく迅速承認は支持されず

財務見通しの変更

2025年12月期の売上高予想

  • 新予想:25~35億ドル
  • 従来予想:30~35億ドル
  • アナリスト予想:37億4000万ドル

コスト削減策

  • 2026~2027年に研究開発費を11億ドル削減
  • 削減の大半は2027年に実施予定

損益均衡の達成時期

  • 従来予想:2026年
  • 新予想:2028年(2年先送り)

新製品開発の課題と展望

  1. 規制プロセスの長期化:インフルエンザワクチンやがんワクチンの承認プロセスが当初の想定より長期化
  2. RSウイルスワクチンの採用遅れ:競合他社(GSK、ファイザー)との競争が激化
  3. 新製品の収益化タイミング:承認後すぐの大きな収益は見込めず、承認翌年以降に本格的な収益貢献を想定
  4. 中長期的な成長見通し:2026~2028年に年平均25%の収益増加を予測

モデルナ社の今後の戦略

  1. 製品ポートフォリオの拡大:2027年までに10製品の承認取得を目指す
  2. リソースの集中:新型コロナとインフルエンザの混合ワクチン開発に注力
  3. がんワクチン開発の継続:FDAとの協議を続け、承認に向けたデータ蓄積
  4. コスト管理の徹底:研究開発費の削減を通じた財務体質の強化

まとめ

モデルナ社は、新型コロナウイルスワクチン以外の製品開発に注力していますが、規制プロセスの長期化や市場競争の激化により、当初の計画よりも時間がかかっています。特に、がんワクチンの開発は多くの期待を集めていますが、FDAからの迅速承認は現時点では支持されておらず、さらなるデータ蓄積が必要とされています。

一方で、RSウイルスワクチンの対象拡大や新型コロナとインフルエンザの混合ワクチン開発など、着実な進展も見られます。財務見通しの下方修正はあるものの、2026年以降の成長に向けた基盤づくりが進められています。

がん患者やその家族にとって、がんワクチンの開発は大きな希望となります。モデルナ社の取り組みは、がん治療の新たな可能性を開くものとして、今後も注目されるでしょう。


専門用語解説

  • mRNAワクチン:メッセンジャーRNA(mRNA)を用いて、体内でタンパク質を作り出し、免疫反応を誘導するワクチン。
  • RSウイルス:呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種。特に乳幼児や高齢者に重症化リスクがある。
  • 免疫原性:ワクチンが体内で免疫反応を引き起こす能力のこと。
  • 忍容性:薬物やワクチンの副作用が患者にとって許容できる程度であること。